新嘉坡雀鬼(1979)

画・郷力也(1作品だけ村岡栄一)+作・板坂康弘(1作品だけ別の人らしいが不明)

あらすじ

スパイがもつ危険な香りに誘われたナオンが、お互いもう大人なんだからいろんな事をして任務完了。大体そんな感じです。
「新嘉坡雀鬼」「紐育雀鬼」「倫敦雀鬼」「巴里雀鬼」「露都雀鬼」「市俄古雀鬼」の6編を収録。それぞれシンガポール、ニューヨーク、ロンドン、パリ、モスクワ、シカゴを舞台に、表紙のような70年代風イケメンが麻雀に恋のアバンチュールにと大活躍します。ちなみに『ミナミの帝王』の郷力也は、当時「美女が描ける麻雀マンガ家」として人気だったそうです。
最後の「市俄古雀鬼」だけ、画が村岡栄一になります。原作者もどれか1作品だけ違うらしいのですが、ハッキリしません。普通に考えれば「市俄古雀鬼」なんでしょうけど。志村裕次かなぁ…


激闘!!海外麻雀戦争マンガ。

舶来趣味、という言葉がまだ生きていた頃の雰囲気がビンビン伝わってきます。主人公も「海外取材に行く週刊誌記者」「ニューヨークで消息不明になった恋人を探す建築家」「映画会社の海外駐在員」「パリのモンパルナスに住むジゴロ」「商社マンに扮したスパイ」とお腹いっぱいなラインナップ。
原作者の板坂はシナリオ学校で後の竹書房の社長、野口恭一郎*1と知り合い、その縁で「近代麻雀」(活字の方)の初代編集長に就いた人です。映画に影響を受けたと思しき作品が多く、また独自の詩情が作品に溢れ出す人でもあります。
たとえば、パリのジゴロのモノローグ。


麻雀マンガにはもっとキテレツなポエムがあるので、レベルとしては普通ですが、まあこんな感じです。


シナリオ学校出身だからか、この時期の麻雀マンガには珍しくプロットがあります。ネタバレを避けるため詳しくは書きませんが、どんでん返しが必ずあるんですよね。お、そう来たか、という新鮮な驚きが味わえます。
その分、麻雀シーンに関しては添え物というか、麻雀である必然性が余り…という印象が否めません。しかしその中でその国の特色を出そう、という意欲は高く、飽きさせない工夫が見られます。
例えばロンドンの宝石商との勝負は「ダイヤモンドシンジケートルール」。三元牌をそれぞれダイヤモンド(白)、エメラルド(發)、ルビー(中)に見立て、1枚で1飜つきます。点棒の代わりにダイヤを使います。ゴージャスですよね。


題名の奇抜さが話題に上ることが多い作品ですが、内容も充実してます。当時の雰囲気を味わいたい人は、この作品や『麻雀無宿』(森義一+三田武詩)を読むといいんじゃないでしょうか。
最後に、昔の麻雀マンガの典型的な〆を紹介して終わります。


おまけ
どうしても気になったもので…単行本の最後によくある他作品の紹介。「仙人直伝の飛打を武器にプロ・ゴルフ界に旋風!!」って、名木さん何やってるんですか。

*1:2010年没。RIP