雀鬼一番勝負(1978)

劇画・北山茂樹+原作・小島武夫+脚本・三輪洋平

三輪洋平は麻雀新撰組の一員ですが、この時期に既に加入していたかのかは知りません。

あらすじ

俺は梶原好一郎。社内でも有名なグータラ社員だが、麻雀の腕はピカイチだ。この腕と頭で何度も会社にドデカイ利益をもたらしてるのさ。俺はいつでも辞めていいけど、社長が辞めさせてくんないんだよなぁ。さて、今日はどこに打ちに行こうか、相棒のドングリ。
梶原主人公の連作集ですが、第2話「涙の四槓殺し」だけ別の話になります。「必殺!!四喜和」「麻雀レクイエム」「幸福への配牌」「雀鬼一番勝負」「雀ゴロ志願」「抜き勝負」の全7編を収録。
表題作は「麻雀で一番勝負?」というションボリ感に加えて内容もイマイチで、なぜこれをメインタイトルに据えたのか意味不明です。あと「抜き勝負」の抜き(イカサマの方ですよ)シーンは1ページしかありません。


表紙から負のツキが発散されています。まず後ろの、ほぼ全裸の女性。じっと眺めてると、心の水面に「ベラヤ・ラヒーモフ・杉江」という言葉が浮かんできます*1。額に☆がありますが、もちろんあの名シーン、竹之丞、エペ、杉江が床を転がったら、それぞれ三元牌が顔に付く、という故事にちなんだものでしょう。ということは下はパイパンなわけですね。
そういう世の中で3人くらいしか喜ばない『花引き』ネタはおくとしても、この女性、一度も作中には登場しないんですよね。じゃあどこに登場するかというと、裏表紙です。

確かに作者の絵にしてはポーズが決まっていてお色気タップリ気味なのですが、かと言って繰り返されても、ねえ。70年代麻雀マンガのお色気に対する熱意は、30年後の世界に生きる我々の理解を超えています。


次に*2注目したいのは、表紙の男の手。皆さま、これ何をしているか分かりますか?実はこれ、自分がアガった牌姿を手に持って、相手に見せつけている所なのです。「義一のバンザイ」と並ぶ70年代の表現技巧、「北山の牌返し」です。*3
作者は特にこの表現を好んだ様子で、絵柄的にもう少し後の作品と思しき『麻雀血風録』では多用しています。今から紹介するのは、この単行本に載っている牌返しシーン。

とても味があります。お手本のような牌返しです。

こちらは何と、牌返しにいたるまでのシーケンスを図解してくれています。私の知る限り世界にこの1コマだけです。しかも図解を見ると、彼はアガる前、手牌を全部上下逆さまにして並べてますね。ついでに左右の順番も一般的な左→右流れとは逆です。その状態でひっくり返すと相手に対して分かりやすく、かなり親切です。
これを見た後で表紙絵を見返すと、左手が隠れていて、ちょっと不完全かな、という気がします。その辺の「何で表紙をもっと頑張らないの!!」感も、北山茂樹の魅力の1つです。


ストーリーは、しっかりと「グータラ社員もの」のフォーマットに落とし込まれています。

  • 取引相手の地主や社長が麻雀好きで、麻雀に勝てば商談に応じてくれる。
  • 彼らから麻雀で金を巻き上げた後に、ソープに連れて行って満足させる。
  • 会社から表彰されるけど、昇進は断ってボーナスだけ貰う。

といった感じで、他の北山作品に比べるとリーダビリティは高いと思われますが、頭悪い感も相当あるので慣れてない人は注意が必要です。
しかもその分、絵の方に注目がいきがちになってしまい、微妙な気分になることもしばしば。例えば、これは第1話の1ページ目、初めて梶原が登場するシーンです。上は相棒のドングリ。

手にした本に目の焦点があってない気がするのですが、どうなんでしょうか。読み慣れている私でも、これは外れかな、と思わせる初っ端の1ページです。
ちなみにイケメン好きの四方田さんが好きそうな情報を書きますと、この2人、どうやら中野のアパートで同棲しているようです。しかも状況から察するに、ドングリは家賃も生活費も払ってません。


後はまあ、70年代の普通のクオリティの麻雀マンガです。北山画伯の絵も下手だけどヤバくはない範囲に収まっていて、入門編にはピッタリ。すごく偉そうですみません…
100円で売ってたら、買っておいて損はないと思います。
最後に、多分もっとスマートなイカサマなんだろうけど、作者の絵のクオリティが残念なシーンを紹介して終わります。


■参考
…北山茂樹をネタじゃなく扱おうとすると難しいですね。とりあえず四方田さんの『麻雀番外地』レビューとか、マンガけもの道の『いれずみ雀鬼』レビューを読むといいんじゃないでしょうか。

*1:そういえば名前がベラヤなら、苗字は「ラヒーモワ」にならないとオカシイんじゃないかと今思いついたのですが、どうでもいいので流します

*2:まだ表紙の話です

*3:80年代の「タンタンタタン」に繋がるかどうかは調査中